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『創られた伝統』

今回は、エリック・ホブズボウム/テレンス・レンジャー編の『創られた伝統』です。
紀伊國屋書店の文化人類学叢書から出ています。
この本によって提示されている視点は、私にとって大きな一撃を与えてくれました。
この本の表紙の言葉にはこうあります。

「伝統」という言葉は当然のように、「遠い昔から受け継いできたもの」と思われている。だが、「伝統」とされているものの多くは、実はごく最近、それも人工的に創り出されたのだと本書は言う。

かくいうこの本は、私たちがその民族固有の歴史ある伝統だと思っていた、スコットランドの伝統衣装であるタータン文様のキルトやバグパイプにはじまり、英国王室の儀礼や儀式などにいたるまで、それらが19世紀以降の社会の近代化に伴っていかにして形成されてきたのかをつまびらかにしています。

たとえば、私たちがスコットランドの伝統衣装と聞いたときに、タータンチェックのキルトというスカート状の衣装を着けた男性たちを思い描くでしょう。ところがこの本の中で、ヒュー・トレヴァー=ローバーは、色と柄によってクラン(氏族)を表すというタータン文様のキルトは18世紀末にイギリスの産業家によってデザインされたもので、19世紀初頭の国王のスコットランド訪問にあやかった商売上手な商会の存在が、その普及に大きく寄与していると書いています。ちょうど当時のイギリスは産業革命の真っただ中にありますし、世界に先駆けた近代国家を普請中でもありました。そんな時期にキルトという“伝統衣装”が創られたのだ、という視点は、私にとって歴史や伝統に対する見方を根っこからひっくり返したのです。

その視点に立てば、日本における“伝統”についても再考してみることもできるでしょう。私たちの江戸の先祖たちは、みな一様に現在私たちが思うところの小袖という着物を着ていた訳ではありません。このことについては柳田国男の「国民服の問題」(『木綿以前の事』岩波文庫に所収)にも紹介されていますが、当時は武家や町民の一部が小袖を着ていたものの、職人や農民などの労働者たちは、筒袖に細袴をはじめより動きやすい衣服を着ていたようです。
それが、日本においても近代化の過程の中で、様々な“伝統”が形成されていくなかで、衣服に関しても“伝統衣装”が固着化されて捉えられるようになったのだと思われます。

このように歴史を振り返るときに、その事実の形成時期とその時代背景をしっかりと把握していくことの重要性は、歴史の研究者には当然のことなのでしょうが、私にとっても服飾文化の流れを考えていくうえで、よくよく注意をしなければならないと、『創られた伝統』は教えてくれたのです。

MOMO

  • 2012/10/25 |
  • 10:00 |
  • ファッション
  • fashionmuseum |
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