follow me

『おしゃれの社会史』

今回は北山晴一氏の、『おしゃれの社会史』について書きます。
私はこの本を手に取るたびに、この一冊に凝縮された膨大な基礎資料の量に圧倒されてしまいます。筆者である北山氏は、あとがきでこの本を「パリの衣生活を支えた三当事者、すなわち衣服を作る人、売る人、着る人をめぐる様々な社会的、文化的問題の記述を軸にして、十九世紀ヨーロッパの首都パリがいかに成立し、変貌していったかをえがこうとしたものである」と書かれています。

この本は、パリという都市がいかにして「十九世紀の首都」(ベンヤミン)と呼ばれるようになったのか、そしていかにしてそこに住む市民たちが“おしゃれ”を楽しむように至ったのかを記述していくのに先立って、まず「汚物都市」であったパリがナポレオン三世の治世下にオスマン知事の英断によって大改造され、クリーンな劇場都市に生まれ変わるところから書き始められています。都市の衛生は、市民の身体の衛生意識へとうつり、やがてその着ているものの衛生へと推移していきました。

そこから話題は、市民の衣への意識の高まりから服飾業界の成立過程、既製服界の発展に対する仕立て職人たちの闘い、パサージュや百貨店の登場による「都市機能の変化」、そしてモードの記号化へと展開していきます。
この流れの中で、先に紹介した「衣服を作る人、売る人、着る人」たちの変化だけでなく、それらの人たちが生きた都市の変貌、衣服産業の誕生と発展の諸相が、縒り合された「十九世紀パリ」という太い縄へと形づくられていく様が、つぶさに描き出されています。

実は、私が本格的に服飾史に取り組むようになったのは、この美術館での仕事をはじめてしばらくしてからのことでした。もともと学校ではまったく違うことを学んでいましたし、館で働きはじめてからはメディア関係を主に担当していたこともあり、服飾史にはなかなか取り掛からなかったのです。
必要に駆られて服飾史に取り組むようになった時に、いわゆる服飾史について書かれている書籍の多くは、自分が知りたい服飾の変遷については十分に応えてくれないことがわかりました。私が知りたかったのは、それぞれの時代においてどのようなスタイルが流行ったのかということだけでなく、その背景となる時代環境であり人々の暮らしや働きだったのです。私は、衣服というものは社会と人をつなぐ装置だと考えています。ゆえに、衣服の変遷を見るうえで、社会の変貌や人々の暮らしの変化についても知りたかったのです。

そんな折、この『おしゃれの社会史』は衣服の変遷を語る上での一つの形を、私に示してくれました。その後、私は服飾史を学んでいくのに、それとは一見関係のなさそうな本を選んで読むようになりました。そこで私が一番意識したのは、それぞれの時代を生きた人々の体でした。それは、食べて飲んで排出して、痛がって悦んで、働いて遊んで、病んで死んでいく体です。
そのような私の衣服について考える目をひらいてもらったのが、この一冊だったのです。

MOMO

  • 2012/06/08 |
  • 12:14 |
  • ファッション
  • fashionmuseum |
  • この記事のURL
  • Trackback(0)
  • Tweet!