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ザ・トップ・オブ・超絶刺繍

どこにもありそうな白いテーブルクロスのような
この布は、大変貴重なものなのです。

世界中探してもこれと同じものが殆ど発見できないのが現実です。

この作品以外にどこで皆さんが出会えるか、疑問です。
きっと、これが最後だと思いますよ。(ごめんなさい!)

一見すると、普通のミシン刺繍、あるいは
異常に丹念なダブルランニングステッチ(バックステッチ)に見える刺繍は、

裏からよくよく見ると、
細かい細かいチェーンステッチであることが判明します。

(とっても美しいシンプルな模様が描かれているので、自然に目を奪われますが。)

この厄介な技法を使用できたのは、インドが誇る刺繍技術者集団、
あの泣く子も黙ると言われるモチ共同体しかありません。
隣の見事な緑のスカートなどの製作者たちです。

伝統的な靴直しと革職人のカーストに属する
グジャラートのカッチ地方に住むモチ族に、1700年頃パキスタンのシンドから来た回教徒の托鉢僧によってその刺繍技術は伝えられました。

(コーヒールンバの歌詞にそんなのありましたね)
もっと遡れば、古きペルシャの技術だと思われますが。
(この技術は、同じ頃にヨーロッパにタンブール刺繍として伝搬したと思われます。)

目の揃った高度なチェーンステッチ(鎖縫い)は、
シルクサテン地をしっかり木枠に張り、鉤状の突錐アリ(ari)を用いて施されます。

彼らの作品は大評判を呼び、ブジの宮廷やカッチの富裕のお抱えとなり、
技術向上に切磋琢磨を繰り返したモチたちは、
19世紀後半にはインド史上(言い換えれば人類史上)
最高の刺繍作品を生み出すことになりました。

全く超人的な刺繍が生まれたのです。

20世紀になると急速にパトロンを失い、衰退し、
残念ながら戦後は見る影もありませんが。本当に悲しくなります。

言い忘れましたが、この布には真綿が入ってキルトになっているのです。
どうして鉤針がスムーズに動いたのでしょうか?不思議ですよね。

話を戻しますが、緑のスカートのように色鮮やかな華麗な刺繍、
近づくまでプリントと見間違うような正確で細かい技術は
真に驚愕と言えるでしょう。

デザインと技術が神の領域に達したような本展でも
超絶刺繍の逸品です。

しかしながら、今回の展覧会に展示されている
国や民族を代表する100を超える刺繍作品の中で最高の超絶刺繍一つを選べと
言われれば、私は迷いながらですが、この白いマットにします。

布面を埋めることなく、白い線だけで宇宙を描き出した技術は、
1本の線、一つの運針にさえ、
無限の色と面が隠されているような可能性を感じるのです。

面を超えた線、そんな事がここに起こっています。

ジャイプールのマハラジャがありったけのお金を用意し、
清楚で高貴、そして驚愕なマットをモチに注文したのだと想像できます。

来場されたか方は、どうか騙されたと思って時間の限り、
全体、細部と全部眺めてください。

そして、インド刺繍、否染織文化の頂点を見極めてください。

最後になりましたが、この頃特に仲良くさせていただいている
東京の庭園美術館で「ステッチ・バイ・ステッチ 針と糸で描くわたし」
が9月27日(日)まで開催されています。

本館とは全く違ったアプローチで、糸と針のアートを堪能できます。
当館のこんな手の込んだ刺繍は嫌だという方も
是非、御覧になってください。楽しいですよ。

等身大の私、一寸背伸びした位の私が描かれていますので。
500キロ以上離れていますが、関連企画(?)です。

もう一つ情報です。
東京のミッドタウンの国立新美術館で開催している
「ルネ・ラリック展」には当館のドレスが4点出品されています。
その中でキャロ姉妹店のドレスが、一人で超絶刺繍展をやっているので、
興味がある方は是非見てくださいね。

(BX-16S)