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『風立ちぬ』

巷では賛否両論あるようですが、私は完全にヤラれました。見事に胸を撃ち抜かれました。何にかというと、『風立ちぬ』です。

公開から早や数週間。いつ観に行こうかと思っていたところ、つい先日、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』で宮崎駿監督の特集をしていて、それを見ながら居ても立ってもいられなくなり、公休日の昨日、観に行ったのです。行動がベタですね。

オープニング早々、二郎が夢の中で飛行機を飛ばすシーン。その飛行機の色と山や空の色、朝日の色とに、一瞬で心奪われました。瞬殺でした。「うわぁ~」と声なき声を上げて、一緒に空を飛んだ気になってしまいました。

以降、まだご覧になっていない方に失礼にならないように、話の筋にはできるだけ触れませんが、いくつか感想を述べさせていただきます。

まずは、色の美しさに目を奪われました。空の色、それも日本の空とヨーロッパの空、現実の空と夢の中の空など、実に多彩な空が表されています。私としては、一銭蒸気に乗るシーンの夕間暮れの紫と茜の混じる空と水面に、なんとも言えぬ抒情を感じました。

次に、飛行機。最初に二郎の夢の中で飛ぶ飛行機にはじまり、カプローニによる Ca.60 トランスアエロなど、空を飛ぶ夢に憑かれた人々が作りだした“イカロスの翼”の数々が、この上ない愛情をこめて描かれています。ユンカースG.38のジュラルミンの機体のピカピカ感には、思わずあんぐりと口を半開きにしてしまいました。

音響効果も面白かったです。事前に飛行機のプロペラ音や車のエンジン音は人の声だと聞いていたのですが、それだけではなく随所に人の声が使われていて、これが今までにない音響世界を創り上げていました。「ぶるるるるるる」とか「もおぅぅぅぅぅんん」、「ぼぅわぁぁん」などが、幾層にも重ねられて、不思議な効果を生んでいたように感じます。

セリフ回しも粋でした。祝言のシーンの口上のやりとりもグッときましたが、序盤に主人公の二郎とヒロインの菜穂子の列車での出会いのシーンにも。
“Le vent se lève”と言葉を投げる菜穂子に、戸惑いながら“ il faut tenter de vivre”とつぶやく二郎。もちろんこれは、本作のタイトルにもなっているヴァレリーの詩の言葉です。堀辰雄による訳では「風立ちぬ、いざ生きめやも」ですが、この後節がこの作品のキャッチコピーである「生きねば。」なのでしょう。

そのほかにも、いろいろと目を見張るところも山ほどありましたし、何度も涙を流しましたし、観終わった後すぐにでも、もう一度観てみたいと思う作品でした。というよりも、一度だけではまったく未消化ですので、観なければならないと。

映画を観ながら、「あれ?このシーンは過去の宮崎作品のあのシーンのようだ」と感じたところも多々ありました。ナウシカやラピュタ、千と千尋、もののけ、ポニョまで。その度に「このシーンは、宮崎監督自身の原風景のようなものなのかもなぁ」と思っていました。
そういう意味では、1982年の『風の谷のナウシカ』のコミックから、本格的にはじまった宮崎駿の創作活動の、一つの到達点でもあるのかなと思ったり…

巨匠といわれる映画監督の中には、一般には不可解だと言われる作品を、ふと創る方がいらっしゃいます。それは時として賛否両論を巻き起こし、巷を困惑させたりします。フェリーニの『8 1/2』、黒澤明の『夢』、北野武の『TAKESHIS’』などなど。これらはいわば、“監督の、監督による、監督のための映画”ではないかと。で、『風立ちぬ』もまた、そういう映画なのではないかなと、考えてみたりしています。

MOMO

  • 2013/08/29 |
  • 15:17 |
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